文:上田幸輝(認定精神保健福祉士・相談支援専門員)
2025年10月、スーパービジョン(SV)の動画を新しく追加しました。
“支持的支援型”スーパービジョンのすすめ ~スーパービジョンはもっと無責任であっていい~という、ちょっと攻めたタイトルとなっています。(興味を持っていただいた方は、動画もチェックしていただければ嬉しいです)
このブログでは、その動画の内容をちょこっと書きたいと思います。
そして、スーパービジョン、OJT、事例検討それぞれの違いについて整理します。
さらには、生成AIとの対話という避けては通れない話題についても触れたいと思います。
この機会に、スーパービジョンについて、一緒に学びを深めていきましょう。
もっと無責任
正直言って、スーパービジョンを実践している専門職はそんなに多くないのが実情ではないでしょうか。
「先輩や上司には思っていることがあってもやっぱり言いにくい。だって評価に関わるから」とか、「OJTによって所属機関内での教育指導を受けているのに、さらにSVでも教育指導を受ける必要はないのでは?」と言った思いを持つ方は少なからずいらっしゃると思います。
私は、対人援助の専門職が成長していく過程においては、「そのような思念から解き放たれて、もっと自由にもっと無責任に感じたままを語ってもいい」という機会が必要ではないかと考えています。そんな場を保障できる一つの選択肢が、スーパービジョンだと思っています。
そして、所属機関の外部のスーパーバイザー(SVR)であれば、スーパーバイジー(SVE)の現場を知らない責任を持たない立場だからこそ良い意味で「無責任に」SVEの語りをそのまま聞くことができる、という効果があると感じています。できれば、所属機関以外にSVRを持っておくことが大切だと思います。
支持的支援型
そんな機会を保障するには、私たちSVRがSVEの話や感じたままの思いをそのまま聞く必要があります。
それが、SVでいうところの支持的機能ということです。
よく3つの機能を横並びでとか順番に説明する書物が多いと思いますが、私は、支持的機能がベースにあり、SVRとSVE双方の信頼関係がまず築かれなければSVは成り立たないと経験的に学びました。だから、ベースである「支持的機能」を強調したSVをしていきたいという思いでいます。(参考図書「援助者の援助」村田久行著)
そこに、私たち対人援助職が普段行っている実践・「支援」という言葉をくっつけました。SVEが自ら成長したいという思いを大切にしたSVであるということを強調しています。
SVとOJTと事例検討の違い
私たちが支援に悩んだ時の対処法にはどんなことがあげられるか?主な対処法について説明します。(詳しくは動画もチェックしてください)
【OJT (On The Job Training)】
対人援助の専門職にとっては一番身近かなと思います。業務を覚えるために上司や先輩から業務内容を教えてもらうというやつです。
OJTは業務遂行上必要な実務について習得させること、即戦力の職員として育てることが目的で、あくまでも所属機関の職員としての業務遂行能力に焦点が当たっている点がSVとの違いです。SVの教育的機能を強調したかかわりと言えるので、このOJTのことをSVと言う専門職は少なくないと思われます。
(余談ですが、最近はこのOJTが機能していない事業所もあると聞いてます。みなさんの職場ではどうですか?)
【事例検討や勉強会】
事例検討は、クライエントへのより良い援助の方向性を導き出すことが目的です。あくまでも利用者やクライエントさんにどうかかわるのかという方法論について話し合われ、より良い支援方法を探っていくということに焦点が置かれます。
SVと事例検討は事例を使って行う点で似ているわけですが、SVはスーパーバイジー自身の成長に焦点を当て、事例検討はクライエントへの援助方法に焦点を当てるという違いがあります。参加者から事例提供者(例えば私)に、「それで、上田さんはどう思ったの?」って、支援者自身の感じたことや思いを尋ねられることはほぼないという違いです。
【スーパービジョン】
SVEがSVRの援助を受けて、自らの実践を振り返り、支持される(エンパワメントされる)ことで力づけられることが期待され、また、SVRとのやりとりの過程で、SVE自身が気づきを得て成長していく過程そのものを支援していくことになります。
「上田さんはその時どんな思いでかかわっていたんですか?」
「それはおつらい経験でしたね」
「それから何を思ってどんな行動を選択されたんですか?」
こんな調子で、SVRはSVEさんその人に焦点を当て、語りを促し、共感し、またSVEの語りを促していきます。あくまでも焦点はSVE自身に当たっており、SVEが「感じて」「語って」「気づいたこと」や専門職としての成長に焦点付けられます。これは、悩み続けること、自ら答えを出すこと、と言ってもいいと思っています。
+生成AI
このAIに相談する場合の目的とか焦点付けを自分なりに考えてみたのですが、検索等のお手軽さも加味すると、「簡単に正解を得たい」ということかなぁと考えたりします。そして、AIは「否定されることが無く」「自己肯定感を保つ」にはうってつけな面も人気?なのかなと思ったりします。
私のSVでは、SVEに正解は教えていません。SVRの経験を伝えることはあっても、これが正解だからこうしたらいい・・・とは、決して言えません。支援というものは、正解のないものだと思うのです。どこまで行っても「納得解」を支援者とクライエントの間でどう作ってくかだと思うのです。だから、SVE自身が悩み続け、自分で答えを見つけていくことでしか成長はない、と言えるのだと思います。
SVRの経験している本物の悩みを経た受容や共感だからこそ、SV過程における「SVEへの肯定」に説得力があり、SVEも「納得解」を得られるのだと思います。それこそAIの「いいね👍」は、根拠の薄い無責任な「いいね👍」ではないかと思うのです。
SVとAIの違いは、まだまだ考え続けなければならないですが、今のところはこんなことを思っています。
SVとAIならどちらを選ぶのかは皆さんの自由です。ただ、「対人援助の専門職として少しでも成長したい」と思っていらっしゃる皆さんは、生の人間との対話(SV)を選んでもらえたら嬉しいです。